新第5回欧州手術見学旅行報告

まえがき

2017年5月15日に10月初旬のLondon の病院を中心とした手術見学とIGASS学会の参加の企画を発表し第5回欧州手術見学の参加者を募集いたしました。しかし同年6月5日にLondon テロ事件が勃発してしまいました。丁度2015年11月13日のパリ襲撃事件によって2016年2月初旬の第4回欧州手術見学とArgospine学会の参加を中止した時に似ています。この時はリスク管理を考慮して2016年10月初旬のBerlinを中心とした欧州手術見学旅行に変更して実施いたしました。今回もリスク管理の面からLondon中心の手術見学は中止してOxfordとDublinのみに限定して新第5回欧州手術見学旅行を企画し実施しましたので報告をいたします。期間は2017年10月8日より10月14日の約1週間で参加者は以下の陣容の8人で無事実りある見学旅行を終えましたので報告いたします。

●伊室 貴先生(厚木市立病院、整外)
●青山 剛先生(手稲渓仁会病院整形外科脊椎脊髄センター、脳外)
●梅林 猛先生(品川志匠会病院、脳外)
●隈元 真志先生(福岡記念病院脊椎脊髄外科、脳外)
●伊藤 研悠先生(名古屋大学医学附属病院、整外)
●熊野 洋先生(マネージャー、国立病院機構相模原病院、整外)
●山崎 昭義先生(コンダクター、新潟中央病院、整外)
●熊野 潔(コンダクター品川志匠会病院、整外)

新第5回欧州手術見学に参加して・・・・・・・・・厚木市立病院 整形外科 伊室 貴

 平成27年9月18、19日に開催された第22回本学会にて発表させていただきました「D-dimerと可溶性フィブリンモノマー複合体の組合せによる腰椎疾患の周術期における静脈血栓塞栓症の検索方法」をまとめた論文にてベストペーパー賞をいただきました。その副賞として欧州手術見学旅行に参加させていただきましたので報告いたします。
平成29年10月8日午後6時、英国のOxford にあるMercure Oxford Eastgate Hotelのロビーに集合、ホテル内のレストランMarco's NEW York ITALIANにてOxford大学Prof.Rothenfluhとともに今回の8名の参加者により結団式を兼ねての食事会にて本旅行が開始されました。
1)Oxford University Hospital 見学
Oxford University Hospitals は、診療分野により4ヶ所の病院に分かれている内、今回は整形外科領域を専門とするNuffield Orthopaedic Centerを訪れました。到着してみると、広大な敷地内に予想を大きく反した歴史を感じさせる2階建ての低層の建物がMain entranceを中心に放射状に構成されておりました。
先ず、Sarcomaのカンファランスを見学後、手術室にて脳外科医のDr. ChaudharyによるMEDを見学いたしました。ふと天井を見上げると、手術台と器械台に送風口からの清潔な空気が届くよう、天井より約50cm程の透明なガラス板が術野を取り囲むよう垂直に取り付けられておりました(現在、本邦の空調では遮蔽板は不要とのことです)。その後、手術室を出て、入院病棟や広いプールのあるリハビリ施設を案内していただくとともに、充実した日帰り手術の病室を見学しました。英国では医療費の患者自己負担がないため公立病院では医療費抑制が課題とされており、脊椎の内視鏡手術も日帰り手術として行われることも多いとのことでありました。
2)11th IGASS forumへの参加
Oxfordから空路にてアイルランドの首都ダブリンに移動、10月10日にBallsbridge Hotelで開催された11th IGASS forumに参加いたしました。
今回はテーマを"Revision in spine surgery. How to avoid and how to deal with it"として、”Deformity", "Degenerative", "Cervical"の3つのセッションにおいて全部で19演題の発表が行われました。筆者も"Fourth lumbar vertebral body collapse in which deep vein thrombosis existing before surgery exacerbated to pulmonary embolism after operation"という演題名で、第4椎体圧潰により左麻痺性下垂足をきたし、術前より左下腿に発生したDVTを把握、筆者らの方法に従い術後に増悪した肺血栓症に対して下大静脈フィルターの挿入により良好な経過を獲得できたことを発表いたしました。その他にも今回の参加者により日本から合計7演題を発表いたしました。
3)Blackrock Clinic見学
10月11日ダブリン市内の東崖岸にあるBlackrock Clinicを訪れました。1980年代にprivate hospitalとして開設された地上5階建ての近代的な病院の玄関を入ると、中央のホールは吹き抜けとなっており、足下の池には魚が泳いでおり、Oxford大学病院とは大きく異なっておりました。
Dr. Kielyによる説明の後、内腔にBMP2のシートを充填し、周囲をセラミックで包んだ椎体間ケージを挿入するDLIF(Direct Lateral Interbody Fusion)の2症例を見学いたしました。1週後に後方より経皮的にPedicle screwを挿入する予定であるとのことでありました。
最終日は、自由行動としてEurospineへの参加、ダブリンの市内観光等を楽しんだ後、アイルランドダンスのディナーショーを楽しみました。
今回の旅行は、熊野 潔理事長、第24回本学会会長の山崎 昭義先生をコンダクターとし、青山 剛先生、梅林 孟先生、隈元 真志先生、伊藤 研悠先生が参加、熊野 洋先生のマネージメントにより全行程を円滑に無事終了することができました。稿を終えるに臨み、大変貴重な経験をさせていただきましたことに厚く御礼申し上げます。

Nuffield Orthopaedic Centre

Nuffield Orthopaedic Centre

手術室

手術室

Dr. Chaudhary

Dr. Chaudhary

11th IGASS が開催されたダブリン市内Ballsbridge Hotel

11th IGASS が開催されたダブリン市内Ballsbridge Hotel

11th IGASS Program

11th IGASS Program

Blackrock Clinic

Blackrock Clinic

Blackrock Clinic

Blackrock Clinic

Blackrock Clinic

Blackrock Clinic

Dr. KielyによるDLIF

Dr. KielyによるDLIF

Dr. Kiely(左から二人目)と見学参加者

Dr. Kiely(左から二人目)と見学参加者

第5回欧州手術見学報告記・・・・・・・・・名古屋大学医学部附属病院整形外科 伊藤研悠

 第5回JPSTSS欧州手術見学の貴重な機会をいただきましたのでご報告いたします。オクスフォードに集合しOxford Universityでの手術見学、そしてダブリンに移動しIGASS発表、手術見学を行う日程でした。2チームに別れましたので、自分のチームの報告となります。まずイギリスはNHS(National Health Service。原則無料だが家庭医の紹介が必要で待ちが長い。医師や機関の選択不可。)とprivate(全額自己負担だが待ちは少なく医師や機関選択自由。救急対応はない。)の二つに別れており、NHSを用いて国がコントロールしている背景があります。アイルランドも同様の方法をとっていました。Oxford Universityは世界大学ランキングで常に上位となり皇太子徳仁親王や雅子様が学ばれた所としても有名ですが、決まった一つの大学があるわけでなく40大学が合わさった総称です。Oxford University Hospitalsも同様にJohn Radcliffe Hospital、Churchill Hospital、Nuffield Orthopaedic Centre、Horton General Hospitalの4つからなる総称です。Drはこの4つを回り診療をされていました。今回John Radcliffe Hospitalにて手術見学いたしました(図1)。本病院は特に脊椎腫瘍に力を入れており、spinal osteosarcomaが15-20症例/年とのことで驚愕しました。NHSによる症例集積がなされていると感じました。これをJeremy Reynolds先生とDominique A. Rothefluh先生の二人が中心となり行っていきます。今回もosteosarcoma症例を用意してくださったのですがmetaにて中止となり、化膿性脊椎炎L1圧潰の後弯症に対する前後合併矯正固定術を見せてくださいました。生憎、手術室内は写真撮影禁止であり紹介できませんが大変勉強になりました。

ダブリンではOur Lady’s Children’s HospitalにてPatrick Kiely先生の手術を見学しました(図2)。Kiely先生はprivate hospitalとnational hospitalを行き来しており、成人から小児まで治療されます(図3)。今回、9歳男児の症候群性側弯症に対するgrowing rodを見学しました。Upperとlower foundation共に6本ずつscrewを入れていました。また術中tractionはHarrington systemを用いて骨盤と肋骨で伸展していました(図4)。頭蓋-大腿牽引より力が働くことがメリットですが別皮切となることがデメリットとのことでした。

本fellowshipを通し手術見学、医療制度など大変勉強になりました。しかしそれ以上に日本の先生方や現地の先生方と交流し貴重なお話を伺えたことがなによりの財産となりました。このような貴重な機会を与えてくださった熊野潔先生、山崎昭義先生、また大変なスケジュール調整をしてくださった熊野洋先生とJPSTSS事務局の皆様に深謝申し上げます。

図1. John Radcliffe Hospitalにて。左から熊野洋先生、隈元真志先生、筆者、梅林猛先生。

図1. John Radcliffe Hospitalにて。左から熊野洋先生、隈元真志先生、筆者、梅林猛先生。

図2. Our Lady’s Children’s Hospital. National Hospitalにて歴史を感じます.

図2. Our Lady’s Children’s Hospital. National Hospitalにて歴史を感じます.

図3. Patrick Kiely先生. C-armのheadは小さくPS挿入の邪魔にならない.

図3. Patrick Kiely先生. C-armのheadは小さくPS挿入の邪魔にならない.

図4. Growing rod術野. Harrington systemで伸展.

図4. Growing rod術野. Harrington systemで伸展.

第5回欧州手術見学報告記 EUROSPINE 2017参加報告
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・手稲渓仁会病院整形外科脊椎脊髄センター 脳神経外科医 青山剛

 本年初めて,欧州手術見学およびIGASS meetingに参加させていただきました。今年も昨年に引き続き,EUROSPINE meetingと合わせて参加しやすいよう,日程および開催地が選ばれております。手術見学とIGASS meetingの報告は他の先生より行なっていただいたので,私はEUROSPINE meetingについて報告致します。

本年のEUROSPINE meetingは10月11日から13日までの3日間,そして前日の10日はpre-day courseがアイルランドの首都ダブリン,Convention Center Dublin(CCD)で開催されました。演題はoral 75題,short oral 80題と厳選されているものの,基礎から大掛かりな手術に関するものまで,脊椎脊髄疾患のほぼ全領域をバランスよく網羅しております。その他,debate session, lumch symposium,企業主催のランチョンセミナーがあります。

その中で印象に残った演題をいくつか紹介します。1つ目はギリシャからで,軽度の側弯に対して過剰な装具治療が多く行なわれているとのことで,それに対し座長が教育の重要性を知らしめるすばらしい発表だとのコメントをしていました。当初はギリシャの国民性を想像しましたが,ふと我が国を振り返れば,やはり教育の重要性を感じることが多々あります。国は違えど共通の問題を有していることが実感できます。2つ目は,多くの腰椎変性疾患に対して行なわれている固定術は除圧術に比べて長期的な利益はない,とのスウェーデンからの発表です。手術第一と思われる先生からの反論はありましたし,症例選択の問題もあるかとは思います。それでもこのような発表を聞けるのが本学会の良さであるとは感じます。またスウェーデンは(およびノルウェー,デンマークも)脊椎手術患者の登録制があり,他施設の症例も含めた研究が容易にできます。個々の症例の詳細はわからないという欠点もありますが,症例数も学会の採択に重要である現実はあり,日本でもできないものかとは思ってしまいます。3つ目は,頚椎の1椎間神経根症に対するarthroplastyは費用に見合った効果はないという発表です。過去の学会でも頚椎のarthroplastyへの否定的な発表が多く逆に肯定的な意見は少ない印象でした。近い将来日本でも導入されると聞いていますが,その使用へは慎重な検討が必要かとは感じてしまいました。本邦からも発表は多数ありました。技術的には世界に並んでいることを国際学会では感じることができます。特徴と言えば他国に類を見ない急速な高齢化率であり,今後も超高齢化社会に特有な医療事情の発信は重要です。

手術の技術だけに限れば国内学会への参加で十分かとは思います。しかし世界の中での日本の位置,これから日本はどのように変化するべきなのか,また日本から発信できることはなんであるか。それを実感できることが,国際学会へ参加する意義かとは思います。また国内学会では同門,知り合いだけで固まりがちですが,国際学会では日本人というだけで集まります。国内のネットワークを広げられるのも,意外な意義かもしれません。

来年の学会はスペイン・バルセロナで9月19日—21日の会期で行なわれます。そこへの参加を目標として,今後も日々の仕事に励んで参ります。そして来年もまた,手術見学旅行のお伴をさせていただきたく思います。最後に,本年の見学旅行コンダクターの熊野潔先生、山崎昭義先生,マネージャーの熊野洋先生,そして旅行中お世話になった参加者の先生方に,厚くお礼申し上げます。

学会場のCCD(Convention Center Dublin)

学会場のCCD(Convention Center Dublin)

学会場風景

学会場風景

Welcome reception Irish dancing

Welcome reception Irish dancing


新第5回欧州手術見学参加者リスト

日 程 2017年10月8日から13日
行 先 Oxford University手術見学, UK
IGASS, Dublin, Ireland
Eurospine, Dublin, Ireland
手術見学(交渉中), Dublin, Ireland
参加者氏名 所属施設 卒業年度
伊室 貴 厚木市立病院整形外科 昭和62年卒
青山 剛 手稲渓仁会病院整形外科脊椎脊髄センター 平成7年卒
梅林 猛 品川志匠会病院 平成10年卒
隈元 真志 福岡記念病院脊椎脊髄外科 平成13年卒
伊藤 研悠 名古屋大学医学附属病院整形外科 平成16年卒
熊野 潔 (コンダクター) 品川志匠会病院  
山崎 昭義 (コンダクター) 新潟中央病院整形外科  
熊野 洋 (マネージャー) 国立病院機構相模原病院整形外科 平成13年卒


新第5回欧州手術見学参加者 募集要項 及び 新第4回報告

第5回欧州手術見学募集の中止と新第5回欧州手術見学の募集について


本年5月15日にLondon の病院を中心とした手術見学と10月初旬のIGASS学会の参加の企画を発表し第5回欧州手術見学の参加者を募集いたしました。然し6月5日にLondon テロ事件が勃発してしまいました。丁度2015年11月13日のパリ襲撃事件によって2016年2月初旬の第4回欧州手術見学とArgospine学会の参加を中止した時に似ています。この時はリスク管理を考慮して2016年10月初旬のBerlinを中心とした欧州手術見学旅行に変更して実施いたしました。その新第4回欧州手術見学旅行の報告は当学会HPに掲載されていますのでご参照下さい。
今回もリスク管理の面からLondon中心の手術見学は中止してDublinのみに限定して新第5回欧州手術見学旅行を実施したいと思います。当学会は欧米の学会との直接的な関わりを
継続する路線を堅持したい為に欧州でのリスク管理を十分熟慮して今回も新第5回欧州旅行計画を実施したと考えております。参加内容と参加コンダクターに多少の変更がありますが熟慮の上奮ってご参加をお願いいたします。

企画者 熊野潔/山崎昭義

目 的 Dublinにある病院施設にて脊椎外科を見学し、IGASS FORUM DublinとEurospine2017に参加する
応募参加資格

1. JPSTSS学会員である。
2. 新たに会員に申し込んでもよい。
3. 募集人数は4人

内 容

Eurospine2017の参加とDublin and Ireland観光は自由選択  

期 間

2017年10月9日(月)-10月14日(土)

費 用 旅費.宿泊費.IGASSFORUM参加費は個人負担 現地での移動交通費と食事の一部は学会による補助あり
締切り 2017年6月30日(金)
申し込み方法 1. 氏名
2. 生年月日, 年齢 
3. 現所属施設名 
4. 卒業大学名と卒業年 
5. 所属医局の有無と名前
申し込み先 件名「手術見学申し込み」としてJPSTSS学会事務局にメールで送る
JPSTSS学会事務局
E-maill : [email protected]
コンダクタ 熊野 潔/山崎昭義
マネージャ 熊野 洋

*参加決定後のキャンセルなど、詳細につきましては参加者の方に追ってご案内させて頂きます。

**IGASS FORUMのSchedule 10月9日 12:00~18:00 Dinnerあり Venue:Ballsbridge Hotel, Dublin. Main theme:‘Revision in Spine Surgery, how to avoid it and how to deal with it’ Case presentation発表者は会費無料 (http://igass-spine.org/)


新第4回欧州手術見学旅行報告

まえがき  2016年1月に開催される予定であったParisのArgospie meetingが突然中止なったことに加え2015年11月13/14日に起こったパリ―襲撃事件によるフランス全土にわたる治安悪化を考慮して第4回海外手術見学旅行(2016年1月24日~1月29日 London- Bordeaux-Strasbourg 訪問予定)は2015年11月19日に中止を発表した。当学会と欧州脊椎外科学との直接的な交流の重要性を鑑み新第4回海外手術見学旅行を企画し2016年2月19日に告示した。2016年10月2日~10月7日に渡って13人の有志がLondon-Bordeaux-Vienna-Berlinでの手術見学旅行とIGASS2016に参加して有意義な成果を上げた。そのときの成果をここに報告する。 2017年5月吉日             JPSTSS学会理事熊野 潔/佐野茂夫

1. Berlinチーム(2016年10月2日~10月7日)

Best paper賞報告
坂野 友啓(浜松医科大学整形外科)

平成26年9月26日、27日に行われました第21回JPSTSSにて“成人脊柱変形手術におけるフリーハンド腸骨スクリュー刺入精度の推移”という発表をさせていただき、それをまとめた論文でBest paper賞をいただきました。その副賞として欧州手術見学旅行に参加してきました。その中で10月6日に訪れたベルリンにあるCharite Universitätsmedizin Berlinでの手術見学について報告いたします。訪問するまでは知りませんでしたが、Charite病院は300年の歴史を誇る大変由緒ある大学病院のようです。静脈血栓の形成に関わるVilchow3徴として有名なルドルフウィルヒョーを輩出したヨーロッパ最大の大学病院であります。今回お世話になったのは脳外科のProf. Peter Vajkoczyの教室です。当教室は、脳領域では脳腫瘍、脳血管病変、脊椎領域ではMIS 手術から脊柱変形まで幅広く扱い、年間手術件数は4000件にも及ぶそうです。Vajkoczy先生はまだ若く長身イケメンで、教室にもたくさんの活気のあるstaffが所属しており我々を温かく迎え入れてくださいました。朝の7時半からカンファレンスが始まり、緊急入院症例やその日の手術症例などが討議されていました。別の病院と中継をつないでネット中継カンファレンスをしているのが斬新でした。手術は3列で8時過ぎから始まり夜に及ぶまで予定がびっしり組まれていました。頚椎椎弓切除+後方固定(こちらでは椎弓形成術はあまりされないようでした)、PSO、腰椎前方後方固定術(BKP後感染)の3列で始まりました。脳外科の特徴でしょうか?顕微鏡を使うことが多く、ノミはめったに使わずにエアトームを使用し、非常に丁寧な手術が行われていました。また、椎弓根スクリューにセメントaugmentationを併用し、BKPの適応なども含めて日本よりも積極的にセメントを使用していることが印象的でした。17時まで手術を見学し、その後にお互いのプレゼンテーションの時間がもたれました。こちらからは三楽病院の佐野先生と私が15分ずつ講演を行いました。私は浜松医大が行っている脊柱変形手術の研究や手術ビデオを交えてのケースプレゼンテーションなどを、佐野先生は三楽フォーミュラを中心とした脊柱変形手術ストラテジーに関しての内容でした。Charite病院では若い先生方も精力的に研究されており、悪性腫瘍骨転移に関する基礎研究、仙腸関節痛に関する臨床研究、脊柱変形を有する脊柱管狭窄症に関する研究の口演を拝聴しました。脊椎疾患に関してお互いに知識を共有し、議論できたことは非常に有意義なことでした。夜はベルリン市内の郷土料理のお店で合同食事会が開催されました。ドイツの伝統的料理に舌鼓を打ちながら楽しい時間を過ごさせていただきました。可愛いおばちゃんがドイツの伝統的な歌を歌いその場を盛り上げてくれました。また、熊野先生、佐野先生の計らいでお互いに英語で自己紹介、質問などをする時間が持てました。ドイツの人は非常に流暢な英語を話され、改めて自分の英語力のなさを実感した次第であります。しかし、私にとって手術見学旅行を通して海外医師と交流したことは初めてでしたし、非常に貴重な時間でした。この経験を生かしてこれからも海外に発信できるような成果を出し、globalな整形外科医となれればいいなと思っております。 末筆になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった熊野先生、佐野先生、そして我々の旅行をサポートしてくださったJPSTSS学会事務局の瓦間さんにこの場をお借りして深く感謝申し上げます。

図表説明

図1 Charite病院 手術風景 左がProf. Vajkoczy

図2 Prof. Vajkoczy教室の先生方と一緒に

図3 カンファレンスでの筆者の発表


2. Viennaチーム(2016年10月2日~10月7日)

梅林 猛 (品川志匠会病院)

今回、私は第4回JPATSS欧州手術見学旅行に参加させて頂く機会がありましたので御報告致します。熊野潔会長のもと鹿児島大学 山畑仁志先生、日本赤十字医療センター 河村直洋先生とともにオーストリア、ウィーンにあるOtto Wagner HospitalにIGASS meetigおよびEurospineに先立ち平成28年10月2日に手術見学に行くことができました。以前より当学会にも積極的に参加されているSabitzer先生と熊野先生の友好関係により実現された手術見学であり、非常に友好的で活発的な交流を行うことができました。 Sabitzer先生は以前よりExtra-foraminal LIFの発表をされており彼の得意分野である腰椎固定を2症例見学することができました。手洗い参加もさせて頂きましたので手術のポイントを私なりに紹介致します。 まず一症例目はL3/4, 4/5 変性すべり症で、手術はまずPSを挿入し片側関節を完全に切除した後に硬膜を確認し、その後に椎間板を露出し椎間板最外側を確認しました。椎間板を十分に郭清し、ここまではほぼT-LIF approachでしたがここからがポイントであり、オリジナルのシェーバーを挿入し側面、正面Xp像を確認しトライアルを挿入、ケージ高サイズは7, 9, 11, 13でした。トライアルを挿入し少し椎間腔が広がる程度、ケージが容易に抜けないサイズが良いとのことでした。ケージを挿入し再度Xpを確認し、ミズホ社製フレームを可動させて前弯を形成しました。ただケージがかなり大きくXpにてケージが対側の椎体終板辺縁 Apophyseal ringをかなり超えていたためパラレルリトラクターを使用してdistraction forceをかけケージを再度対側から打ち込む必要があり、適正な位置にケージを移動させ十分にcompression forceをかけロッドを締結しました。Extra-foraminal LIFの大きなポイントは通常のT-LIF approachよりやや外側からかなり大きな前弯のついたケージをいれることが可能であると感じました。Sabizer先生の考案されたケージは確かにLLIFにも劣らない大きなケージであり今までのブーメランケージより大きく沈み込みが少ないとの意見も納得することができました。(図-1) 二症例目はL4/5固定術後の隣接椎間板障害。同様に片側のみの侵入で正中の棘突起、靭帯は温存してIndirect decompressionを行いさらに侵入側のDirect decompressionも行っていました。大きなケージを入れるため、先にスクリューを挿入してからケージを入れる必要があり独自のパラレルリトラクターを考案されていました。対側や前方にケージが移動しすぎることもあり若干ケージコントロールが難しいかもしれませんが大きなケージを挿入することの重要性がこの手術の醍醐味だと感じました。(図-2) 手術はテキパキと終了し、夜はウィーンの風土肉料理をご馳走になりました。味は日本でいうおでんの出汁でしゃぶしゃぶを食べるような、説明が悪くて申し訳ありませんがとても美味しかったです。脊椎の話から世界情勢の話、ワインを飲んで私も饒舌になりいつものようにあつく語っていたと思います。(図-3)この後、ベルリンに移動しIGASS meeting, シャリテ大学の手術見学と続きましたがこの手術見学旅行でお会いできたました諸先生方、誠にお世話になりました。この貴重な体験を糧に今後の診療にいかしていこうと思います。このような素晴らしい機会を与えて頂きましたJPSTSS学会に深謝申し上げます。

図表説明 図-1 ケージはXLIFにも劣らない大きさ 図-2 Dr.Sabitzertの手術をアシスト 図-3 Viennaの郷土料理店で


3. Bordeauxチーム(2016年10月2日~10月7日)

井出浩一郎(磐田市立総合病院整形外科)

JPSTSSの2015年度ヤングベストペーパー賞受賞の副賞として新第4回欧州手術見学旅行に参加させていただきました。そのなかでの、Bordeaux大学での見学内容を報告させていただきます。 2016年10月3日、Bordeaux大学でDr.Obeidの手術見学をさせて頂きました。前日の夕方、Dr.Obeidと大阪医科大学からご留学中の藤城高志先生とBordeaux wineを片手に会食を交え、翌日の症例検討をおこないました。 症例は70歳台男性。下肢症状を認め、L4/5の脊椎後方固定を含め3度の手術加療をおこなっている。単純X線像ではL4/5のPLFおよびL3前方すべり、L1の楔状変形がありました。各パラメーターはSVA107㎜、LL49°、PI72°、SS44°、PT28°であり、インプラントの抜去およびL4PSO+T10-iliumまでの固定をおこなうこととなりました。 翌日は8時に手術室へ入室し麻酔が開始されていました。消毒の塗り方や乾燥具合など、手術準備の段階からDr.Obeidのこだわりが随所にみられました。手術はDr.Obeidとresidentとで行っていました。フランスでは術者が右手にメス、左手に吸引管をもち両側の展開をおこなっていました。基本的に術者がすべてをおこない、日本のように助手とチームでおこなうような手術手技でありませんでしたが、展開のスピードがはやく的確で驚きを感じました。既存のPSを抜去すると、左L5PSは椎間孔に入っており、周囲を郭清し、外側からスムーズにPSを再挿入していました。T11からiliumまでPSを挿入していきましたが、スクリューの挿入は片手でおこなっており、骨粗鬆症の強い日本人には危険そうな挿入法でした。対側のPSも反対側から容易に挿入していました。T10はPJK予防にフックが用いられていました。PSOは外側を大きく剥がし、リウエルで荒く掘削していました。掘削量を決めているようではなく、PSOにより椎体を破壊し、コンプレッションで椎体を圧潰させて矯正している印象をうけました。コンプレッションは腰椎部のみのロッドで片側のみでおこなっていました。スクリューの強度を利用した手技に感じました。その他の部位とはドミノを用いて連結しており、変形矯正時のセットスクリューの設置が的確な印象をうけました。腰椎部は3本ロッドとなるように行っていたのも印象的でした。適宜、術中洗浄をおこなっており、最終洗浄時にはイソジン入りの生食で洗浄していました。 本症例では骨密度が保たれており、腰椎前弯が残っていました。椎体自体のサイズが異なることからも、日本人には適さないであろう手術手技もありましたが、展開や矯正、手術時間など感銘をうけました。また、浜松医科大学での手術手技の良い点も再確認できたことはよかったです。

図表説明

図1 Dr.Obeidとの会食  左から 坂野、Dr.Obeid、藤城、瓦間、井出、佐野、大木(敬称略)

図2 手術症例a 術前 

図3 手術症例b術後

図4 Bordeaux大学 

図5 手術風景  Dr.Obeid(左から2人目)と板野先生(右)


4. Londonチーム(2016年10月2日~10月7日)

熊野 洋(国立病院機構相模原病院整形外科)

JPSTSS第4回欧州手術見学旅行に参加させていただいたので御報告致します。Berlinで開催されるEurospine 2016の直前の2016年10月3日にLondonにあるRoyal National Orthopaedic Hospitalを訪問するグループに同行させていただきました。メンバーは千葉徳洲会病院の北原功雄先生、参宮橋脊椎外科病院の大堀晴夫先生、関東労災病院の東川晶郎先生です。この病院は私が2015年7-9月まで留学していた病院であり、その時にお世話になったRobert Lee先生のご厚意で実現することができました。先生はSpinal Deformity Unitに所属されdegenerative spineを専門にされ多数の論文があります。

10月3日朝8時に病院に到着してscoliosis関連の朝カンファに参加しました。変形矯正で御高名なSean Molloy先生を中心とした脊椎外科医が変形症例の外来及び術前症例を10例程度討論されていました。 9時からは手術を2例見学させていただきました。 1例目はRobert Lee先生による腰椎alignment異常に対する前後方固定術のsecond stageの手術でした。first stageは3日前にLLIF cage (K2M社製のCASCADIA lateral interbody system)をL2/3, 3/4に挿入されており、今回はL4/5に多孔性のチタン製のBOX型TLIF cage (K2M社製のCASCADIA AN interbody system)を後方から挿入し、O-arm navigationでPPS (EVEREST MIS system)をL2からS1まで刺入してカンチレバーテクニックでlumbar lordosisを作るというものでした。ポイントは固定範囲のすべてのfacetに対してfacet fusionを行う点です。PPSにつくプラスチック製のしなやかな2枚羽がretractor代わりになり専用のデバイスを装着するとfacetを十分展開することができ、ここに骨誘導を図る目的でInductigraftという人工骨を置いていました。先生にお聞きすると前方がfusionしてもfacetがfusionされていなければ腰痛の原因になりうるとのことでした。一昨年留学していた時はFacet WedgeというDePuySynthes社製のfacet fusion用のcageを使用されていました。

術前

First stage 終了時
Second stage 終了時
2例目はMatthew Shaw先生によるL4/5腰部脊柱管狭窄症に対するALIFでした。展開は左下腹部からのretroperitoneal approachで、vascular surgeonが担当しておりました。毎週ALIF症例があるので定期的にapproach surgeonとして呼ばれているとのことでした。開創器はDePuySynthesのSynframeを使用しているところまで確認しましたが、途中でBerlin行きの飛行機の時間の都合で退室しました。

術前MRI L4/5

病院を後にしたのは午後3時過ぎで、英国とドイツでは時差が1時間あったり、passport controlを通過する必要があったりで結局ベルリンに着いたのは午後11時を過ぎていました。翌日はIGASSで発表を2題行い何とか質疑応答を乗り越え、夜のステーキディナー(Grill Royal)に辿り着きベルリンの熟成肉を堪能させていただきました。そのあとはEurospine、シャリテ大学病院での手術見学へと続き非常に勉強になりました。このツアーでお会いした日本の先生方からも非常に刺激を受けinspireされました。このツアーに参加する機会を与えてくださったJPSTSSに感謝を申し上げます。


新第4回欧州手術見学旅行参加者 募集要項

目 的 欧州の病院での脊椎手術見学とIGASS2016 (http://igass-spine.org/) 及び
Eurospine2016 (http://www.eurospinemeeting.org) に参加する
応募参加資格 1. JPSTSS学会員である。
2. JPSTSS 学会理事の推薦が必要 (*1)
内 容

1. Royal National Orthopedic hospital, London,UK又は.Bordeaux Univ.Bordeaux FR.
  又はOtto Wagner Hospital Vienna Aust.の内1箇所とBerlin市内の病院で手術見学を行なう。

2. IGASS 2016Berlin参加

3. Eurospine2016. Berlin に任意参加する。
*日程表を参照されたい。

期 間

2016年10月3日(月)~10月7日(金)

費 用 旅費.宿泊費.IGASS,Eurospine 学会参加費は個人負担
現地での移動交通費と食事の一部は学会による補助あり
締切り 2016年3月15日(火)
申し込み方法 1. 氏名
2. 生年月日, 年齢 
3. 現所属施設名 
4. 卒業大学名と卒業年 
5. 所属医局の有無と名前 
6. 推薦理事名を記載する
7. 見学日程を参照して希望を記載する
申込先 件名「見学旅行申し込み」としてJPSTSS学会事務局にメールで送る
JPSTSS学会事務局
E-maill : [email protected]
企画者 熊野 潔/佐野 茂夫
*1 理事の推薦については、ご自身にて本会理事に本件につきご照会頂き、申し込みの承認を得た上でお申し込み下さい。
*2 参加決定後のキャンセルなど、詳細につきましては参加者の方に追ってご案内させて頂きます。
*3 中止となった第4回手術見学旅行予定参加者には優先権を認めます。

 

新第4回欧州手術見学旅行 日程表

  日 程
10月2日 現地集合・会食
10月3日 1)Royal National Orthopedic Hospital、London (MISS by Dr.Robert Lee予定)
2)Bordeaux Univ.Hospital ,Bordeaux (PSO by Dr.Ibrahim Obeid)
3)Otto Wagner Hospital, Vienna,Austria (EF-LIF by Dr. Ronald Sabitzer)
のいずれかの病院で手洗い手術見学
10月4日 IGASS meeting (http://igass-spine.org/) に全員参加 任意発表
10月5,6,7日 • Eurospine2016 (http://www.eurospine2016.eu/index.php?id=7489) 任意参加 任意発表
• 内半日又は一日コースで2日に分けてBerlin市内病院で手術見学
10月6日 Banquetは任意参加
10月7日 夕食後現地解散
Berlinでは自由行動, 宿泊旅費食事は自己負担, 食事現地移動については一部学会負担
各学会の
演題抄録
締切り情報
IGASS Theme: "Spine Surgery in the 80+ year old Patient"
演題抄録締切り:未定
HPは現在作成中
問合わせ:秘書のAnke Huber-Jerome (Email : [email protected])
Eurospine 演題抄録締切り:1 Mar.2016

新第4回欧州手術見学旅行参加者リスト

期 間 2016年10月3日~10月7日
参加者氏名 現所属先
北原 功雄 先生 千葉徳洲会病院 脳神経外科 千葉県
大木 武 先生 結城病院 整形外科 茨城県
山畑 仁志 先生 鹿児島大学 脳神経外科 鹿児島県
河村 直洋 先生 日本赤十字社医療センター 整形外科 東京
坂野 友啓 先生 浜松医科大学 整形外科 静岡県
井出 浩一郎 先生  静岡市立 静岡病院整形外科 静岡県
梅林 猛 先生 品川志匠会病院 脳神経外科 東京
大堀 靖夫 先生 参宮橋脊椎外科病院 整形外科 東京
東川 晶郎 先生 関東労災病院 整形外科 神奈川県
熊野 洋 先生 国立相模原病院 整形外科 神奈川県
見学病院 見学者/コンダクター (敬称略)
Royal National Orthopedic Hospital、London 北原 功雄, 大堀 靖夫, 東川 晶郎 /熊野 洋
BordeauxUniversity Hospital,Bordeaux 大木 武. 坂野 友啓, 井出 浩一郎 /佐野 茂夫
Otto Wagner Hospital, Vienna 山畑 仁志, 河村 直洋, 梅林 猛 /熊野 潔
Charite, Berlin 北原 功雄, 大堀 靖夫, 東川 晶郎, 熊野 洋, 大木 武, 坂野 友啓,
井出 浩一郎, 佐野 茂夫, 山畑 仁志, 河村 直洋, 梅林 猛, 熊野 潔
お問い合わせ
JPSTSS学会 新第4回欧州手術見学係 [email protected]


 

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