第11回JPSTSS学会は、今年2004年9月18日(土)、19日(日)の両日、埼玉県さいたま市の大宮ソニックシテイーホールで開催されます。開催にあたり御挨拶申し上げます。
本学会は、昨年高橋宏会長のもとで10年という一つの節目を迎え、新たなsecond decadeに入りました。本学会の三つの基本理念は、1)世界同時進行、すなわち、国内での研究成果を海外に向けて発信するとともに、海外からの医師との交流により、その情報を積極的に吸収すること、2)他科との連携、すなわち、整形外科、脳神経外科など脊椎脊髄外科学を担う科の医師達が集まり、さまざまな観点から智恵を出し合うこと、3)個人としての参加、すなわち、所属部所の方針や考え方に束縛されず、個人として自由な発想や研究を発表すること、というものです。1994年での本学会創立以来、この理念は一貫しており、主旨に賛同された多くの先生方の御参加により、これまで活発な学会活動が行なわれてきました。参加される先生方も年々増え、1999年からは学会誌が発刊され、日本を代表する脊椎脊髄外科学の一学会として成長を続けております。
さて、最近は、EBM (Evidence Based Medicine)という概念が国内の医学界でも広まり、そこで示されたEvidenceが絶対的な価値基準となってきているかのような印象を強く感じます。この概念は、これまで医療実施者自らが行ってきた医療の評価を客観的な観点から見直そうというもので、確かにあるべき一つの方向性を示していると思います。しかし、Evidenceは医療の成果を統計学的な手法で判断した集団としての全体像であるため、個々の症例に存在する問題点が希薄化され被覆される恐れがあります。しかも、統計学的な手法や評価対象の選択いかんでは結果が大きく異なる可能性があるため、Evidenceとは「限られた条件下でのEvidence」であって、けっして絶対的な価値基準ではないことを認識しておく必要があります。我々が日頃の医療で向きあう患者さんは、それぞれが独自の問題点を抱えた個としての存在であり、これらの人々に適した細やかな医療を行うことが重要であると考えます。本学会の目的は、手術手技の創意工夫という手段をもって個の多様性に対応しようというものであり、これはEBMとは異なる方向性を持つ一つの概念であると言えます。
今回の学会では、二つの主題を設定しました。一つは、「脊椎移行部の疾患に対する手術法(a. 頭頚移行部、b. 頚胸移行部)」であり、他は、「腰部脊柱管狭窄症に対する新しい術式、手技の工夫」です。脊椎移行部は、解剖学的にも力学的にも特殊な高位にあたるため、治療の面で難渋する例を多く経験します。特に、胸腰移行部と腰仙移行部に比べると、頭頚移行部と頚胸移行部はその傾向があり、今後、いっそう研究されるべき課題の多い高位であろうと思われます。一方、腰部脊柱管狭窄症においては、その名は広く知られているにも関わらず、病態にはまだ多くの不明な点があります。本症は類似した症状を示す疾患の集まりであるいわば症候群ですが、今までは、さまざまな疾患や病態が一括に論じられてきた傾向がありました。複雑な病態を持つ本症は、個々の病態に応じた治療法をもっと開発していく必要があると考えます。
本学会が行なわれる大宮は、さいたま新都心の中核であり、また、東京や成田にも近くたいへん交通の便のよい所です。会場となる大宮ソニックシテイーホールも大宮駅から徒歩3分の場所にあり、大宮パレスホテルと隣接しています。全国から、また、海外からたくさんの先生方が御集まり下さり、新たな時代の幕開けにふさわしい活発で有意義な学会となることを期待しております。
第11回日本脊椎・脊髄神経手術手技学会
会長 平林 茂
(埼玉医科大学総合医療センター 整形外科) |